そのひと、そのもの / SOU・SOUスタッフ60人のストーリーのある愛用品を紹介
“さあ、書こう/李 瀟瀟”
▲贈り物に添える一筆箋を書く橋本さん(※このコーナーでは取材を受けてくれたスタッフ全員を「さん」付けしております)
万年筆のキャップをとって、うしろににつける。
ペン先をスッと走らせて、一気に書ききる。
義妹の「くうちゃん」宛に例年の
干支手ぬぐいのお届け物に一筆を添える橋本さん。
送り出したら万年筆の役目を終える。
ペンも一筆箋もたまゆらの命。
しかし、その薄っぺらな一筆箋は
さらっと書いた一言によって
人の気持ちが宿った便りになったのだ。
その気持ちを書き下ろした脇役の万年筆は、
主役がなくても粋で美しく感じた。
わたしはシャッターを押した瞬間、
お会いしたこともない「くうちゃん」が郵便物を開けたときの微笑みが目に浮かんだ。
橋本さんのペンケースを見せてほしいと依頼したら、
何本か取り出して、用途別で並べてくれた。
右から
・スケジュール管理には<消せるペン>
・送り状や複写式伝票を記入するとき、三枚目まで濃くきれいに写るように使う<ボールペン>
・お手紙やお礼状用に書き味を楽しめる<万年筆>
・デザインの一部として文字を書く時に使う<マジックペン><筆ペン>等
「例えば、《冬のカブキモノ》のタイトルに筆ペンの渇筆で勢いを表したり、和菓子のパッケージデザインなどにマジックペンを使って、まろやかなタッチで可愛らしさを出したりしています。こういった書いた文字はデザインの一部になる時、特にペンの使い分けを意識していますね。」
きゃしゃな体の橋本さんは淡々と喋ってくれた。
紙とペンの可能性を信じている人だけが持つ揺らぎなさがある。
メールと同じ文面でも、手書きにするだけでひと手間をかけた価値を感じる。
デジタルコミュニケーションが当たり前の時代だからこそ、
手書きの感触に特別な思い入れを感じるのかもしれない。
スマホがない時代の私たちには当たり前だった手書き。
紙なんて、いずれ時間や光とともに、ぼろぼろに劣化するもの。
そこに書き下ろした文字なんて、変化し、消えてなくなるもの。
デジタルにはないはかなさも手紙の持ち味である。
そして、そこには「ひと手間」の余韻、価値、趣があると思う。
「手書き文字には温もりがあります。」
そう言われなくても、橋本さんの一筆箋を見たらすぐにわかった。
さあ、書こう。
(しょうしょう)