一期一絵 毎日更新!SOU・SOU読本

令和3年09月19日 日曜日号

一日一駄話 / SOU・SOUプロデューサー若林剛之によるたわいもない事

“茶室彼是(ちゃしつあれこれ)【39】”

数寄屋大工一家の箱入り娘&SOU・SOU傾衣の看板娘、寺田由のコーナーです!



忘れもしない、二十歳の冬の日のことです。
東京の現場で仕事をしていた父の元を、学校帰りに訪ねては父の仕事を眺めていることが度々ありました。

いつものように現場を行くと、その日は京都から表具師さんがやってきて黙々と作業をしていました。
「表具師(ひょうぐし)」というのを認識したのはこの時かもしれません。
表具師は掛け軸や屏風、茶室であれば障子や襖などの「紙」の部分を担う茶道や数奇屋建築とは切り離せない職人さんです。

和室が少ないと言えど、まだまだ日本全国にいるであろう表具師。
なぜ東京の現場にわざわざ京都から職人が来ていたかというと、その答えは茶室の表具にあります。

もし、ご自宅に障子がある方はぜひ見比べてみてください。
何が違うかお気づきですか?
茶室の障子には障子の真ん中にところどころ線が入っています。

これは「継張(つぎばり)」(「石垣張り」とも言います)という手法。

あえて紙と紙をつなぎ合わせています。
今は障子紙といえば建具に合わせた大きな紙がすぐ手に入ります。
ですが、昔は手で漉いた紙がとても貴重な物で、障子に使用する紙を少しも無駄にしないため継張りになったそうです。
後付けかもしれませんが、継いである部分が美しい陰影となりデザインとして成立しているようにも思えます。
この貼り方も流派によって少し違いがあるのですが、SOU・SOU茶室は継張りの意味合いも考えて、より合理的で紙を無駄にしないように表千家の貼り方になっています。

さて、話は戻り表具師の職人さんに出会ったときのこと。
私はこの時に初めて継張りの障子を知りました。

「お嬢ちゃん、お家の障子見てみぃなぁ、全部ちゃんと継張りしてあるさかいにー。」

なんと!自分の家の20年目の真実!
お恥ずかしい話、いかにぼーっと生活していたのかがわかる衝撃的な出来事でした。

サーッと紙を断つ音、僅かな幅に紙を継ぐ時には思わずこちらの息がグッと止まるほど。
無駄のない職人の手元は見飽きない動の美しさがあるものです。
そして、ただ紙を張るだけはありません。
湿気や乾燥などの影響を受けやすい和紙、あまり強く張りすぎても弱く張りすぎてもいけない。
そして紙によって「張り」の具合が変わるため、糊が乾いた状態を想定しながら調整して張っているとのこと。
上等な紙ほど扱いがややこしいそうです。

これが職人技か!と、えらく感動して表具屋さんが来る日はいそいそと現場に同行していました。

その時に出会った職人さんに、SOU・SOU茶室の障子もお願いしました。
障子紙はSOU・SOUともご縁のある京都の静好堂中島さんから。

ちなみにSOU・SOU茶室の障子紙は京都迎賓館と同じ障子紙を使用しています。
それを知ってから、万が一のことがあったら怖いので障子には近寄らないようにしています・・・。

《つづく》

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それでは、また明日。

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「茶室彼是(ちゃしつあれこれ)」

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6 件のコメント

  • 流派によっての障子紙の貼り合わせなんて、思いもしませんし、知らないことだらけ、いつもありがとう、寺田さん。
    20年目の素敵な気付き、良かったですね(^^)
    まだまだ知らないこと、沢山だと思うので、これからも色々、お願いしますm(_ _)m

  • よっ! R3.09.19 09:32:41
    • よっ!様
      いつもコメントをいただきましてありがとうございます。
      お恥ずかしいことですが、障子の継張りに気がついてから少し景色が変わったような気がします。
      今後もお付き合いいただけましたら幸いでございます。

  •  20年目の真実に気づかれた衝撃!ありますよね・・。見ようと思うものしか見えてない、私もしょっちゅうです。
     今まで参加したお茶室の障子・・どんなだったか、思い出せません。(お菓子は覚えているんですけどね〜)
     

  • はな R3.09.20 16:19:40
    • はな様
      コメントをいただきましてありがとうございます。
      わかります・・・ゲンキンな話ですが私もお菓子は覚えているのにお稽古の内容や先生のお話はすっかり忘れていたりします。
      見ようと思うものしか見えていない、本当にそうですね。
      心に刻みます!

  • こんにちは。
    お茶の先生の家が表具屋さんでした。
    職人の息子さんから聞いた話です。
    とある自治体の公園の隅に茶室を建てるとき、表具のお世話をなさったそうです。障子のメンテナンスなども年一回、破れたら随時やっていたのですが、10年程経って自治体から随意契約を入札にすると通達があったそうです。
    その後は入札に勝ったどこかのインテリア業者がメンテナンスすることになったそうなんですが、石垣張りを知らなかったらしく、張り終わった障子を茶道関係者から指摘されるまで茶室担当の職員も気づかず。
    あげく、破れた箇所をすぐ直してほしいと依頼したら別料金ですと言われて往生してる、なんとか対応してくれないかと泣きの電話が入ったとか。
    息子さんはもちろん断ったそうです。職人のプライドがありますよね。

    お二人とももう鬼籍の方ですが、石垣張りを見てなつかしく思い出しました。

    • earth様
      コメントをいただきましてありがとうございます。
      きっとそれぞれのご事情があったにせよ、なんとも残念な気持ちですね。
      昔は粗末であったものをあえてお金をかけて行うなんて今は贅沢な世の中なのだと思います。
      でも、日本に昔から続く表具がずっと残って欲しいですね。
      心に残るエピソードありがとうございます。

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